俺は先日、終電間際の電車で帰路についた。俺は車内で筒井康隆が書いた本に意識を奪われていた。駅に止まったのも気がつかないくらい熱中して読んでいたのだが、とある駅を過ぎてから異様な匂いが俺を現実に引き戻した。
その匂いは何日も頭を洗っていない頭髪の匂いと大便の匂い、そして腋臭が混じったような強烈なもので、思わずその場を立ち去りたくなるような匂いであった。鼻から空気を吸うのをやめようかと思ったのだが、その匂いの物質が直接口の中に入ってくるのはもっとおぞましく感じられた。気分が悪い匂いという段階ではなく、それはまさに拷問の域に達していたのである。
その匂いの主は断定できなかったが、多分俺の斜め前の席にいた奴だと思う。そいつのとなりに座っている人はどんな気分であっただろうか。回りの人間にはなにも罪は無い。それなのになぜこんな匂いで責められなくてはならないのか。
タバコの匂いを嫌いな人は多い。しかし、コロンや体臭だって度を越せば同じ事だ。コーヒーを飲んでいるときに強烈な香水の香りをさせる奴が入ってきたら、とても気分が悪くなる。その時点でこのコーヒーの価値はゼロになる。その香水アホウにコーヒーの代金を請求したいくらいである。食事でも同じだ。ああいった人間は、自分の匂いに気がついていないのであろうか。
しかし、もしかしたら自分も匂っているのかもしれない。そしてそれは自分で気がついていないだけなのかもしれない。そんな強迫観念にかられる出来事だった。