このマシンが発売されたころのレースの最高峰はGP500だった。1982年頃のGPマシンはほぼ2stで、YAMAHAはV4、HONDAはあのNRをあきらめてV3のNS500で勝負していたが、その頃に強かったのはルッキネリ、ウンチーニ、マモラなどを擁したSUZUKIだった。SUZUKIのマシンは2stスクエア4のエンジンで、この仕様をそのまま持ってきたのがRG500γ、RG400γは500のスケールダウン版だ。
ある日、知り合いの友人がこのバイクに乗ってやってきた。そして、ひょんなことからこのバイクを貸してもらえることになったのである。
「エンジンは温まらないとストールしやすいからね。」「加速はハンパ無いから気をつけて。」そんなことを言われながらマシンをスタートする。
走り出すとそのハンドリングに少々違和感を感じた。フロントが粘っこいのだ。これを「接地感」というのかもしれんが、個人的にはあまり好みではない。それでもマシンは軽く、とても扱いやすかった。で、注目のエンジンだが、6000rpmを越えると一気に加速という2st特有の2段ロケットエンジンだった。この回転粋になるとエンジンの振動も少なくなってまるでモーターのような回り方をした。加速は強烈の一言で、前にいる車に近づくタイミングが全然ちがうのである。加速で軽く恐怖を覚えたのは今のところこのマシンだけだ。
すっげーと思いながら異様に速いタイミングで近づいてくる先行車にぶつからないよう、アクセルを戻した瞬間に俺は心臓が口から飛び出すくらい驚いた。アクセルを戻しても全くスピードが落ちないのである。どのくらい減速しないかというと、アクセルを戻してもフロントフォークがほとんど縮まないというレベルなのだ。体はアクセルを戻したときの減速感を覚えている。それなのにマシンは全く減速しない。こういうときどういう感覚になるかというと、「アクセルを戻しても加速している」ように感じてしまうのだ。
これはマジに焦った。マシンはアクセルを戻しても全く減速せず先行車はあっという間に近づいている。軽くパニックになりながらあわててフロントブレーキを握るが、これが思ったより効かなかったのでさらに焦った。まじめに「これはぶつかるかもしれん」と感じたほどだ。
このRG400γ、クランクマスが大きかったのだろう。というか、昔の2stは全体的にクランクマスとかが大きかったに違いない。だからほとんどエンジンブレーキが効かなかったのだろう。クランクマスも小さくしてエンジンを軽量化し、2stにしては圧縮比も高かったNSR250Rはエンジンブレーキもそれなりに効いた。確かに2stは4stに比べ、その構造上エンジンブレーキの効きは悪い。しかし本来は全く効かないわけではないのである。
2stにヤラレタのはRD400に続いて二度目だ。2stなんて乗るもんじゃねーなと心に決めた俺だったのだが・・・