昔、
嘉門達夫の曲?に、
アニバーサリー女ってのがあったのを覚えている方も多いだろう。「ねぇ、今日何の日か知ってるー?」ってアレだ。
そのフレーズとともに、俺はある男を思い出す。そいつは俺の大学の後輩で、俺と同じバイトもしていた。仕事は全く適当な奴で、いつでも「のへー」っとしていた。俺は奴を
「のへじ」と命名してやった。
コイツといると、なぜかいっしょに働く連中がみんなだらけてしまう。みんなのやる気をなくさせる不思議なパワーを持っていたのだ。俺はその原因が未知のウイルスにあるのではないかと仮定した。そしてそのウイルスを
『ノヘG型ウイルス』と名づけ、仕事場で発表したのである。このウイルスは感染力は強いが繁殖力は弱く、感染後数時間で死滅するようであった。
このウイルスがばら撒かれると、みんなのへーっとしてしまい仕事の効率が非常に悪くなる。他のバイトも、俺が発見したこのウイルスの存在を認識したらしく、やる気が出ないと「ノヘG型ウイルスに感染してしまいましたー。」とか言っていた。
その「のへじ」はムーミンみたいなねーちゃんに手を出してしまっていたのだが、そのムーミンから話を聞いて、
ノヘG型ウイルスが威力を増したのかと俺は震え上がった。以下、そのときの会話。
俺 「おい、ムーミン、オマイラ、二人でいるときどんなこと話してるんだ?」
ム 「何って別に…普通の会話ですよー。」
俺 「話すよりアッチが先かぁ?」
ム 「おやじまんさん、彼女いないから羨ましいんでしょー。」
俺 「(オメーとはご遠慮させてくださいよ)うるせー。お前、どうせ今日何の日か知ってるーなんて言いながらゴロニャンしてるんだろ?」
ム 「それはのへじさん。」
俺 「へ?」
ム 「のへじさん、すっごいよく覚えてるんだよ。初めてエッチした日とか、チューした日とか、そんなのだけじゃなくて、この日はどこどこ行ってそのとき私がこう言ったとか。」
俺 「ホントかよ。」
ム 「人の誕生日とかもすっごく覚えてるよ。」
俺 「アニバーサリー男か?」
ム 「そんなレベルじゃないの。信じられないくらい。いついつ誰々がこう言ったとか、誰と誰がいつどこどこで一緒だったの見たとか…」
俺 「…」
仕事はしない「のへじ」のくせに、そういうことは達者なのかよ。しかし、良くそこまで覚えられるもんだ。迂闊に変なこと言えねーじゃんかよ。オマエのメモリは何MBなんだよ。つか、男でそれってどうよ。そんな男にはなりたくない!絶対イヤだ!
そんな恐怖が頭の中を駆け巡った記憶がある。
ためしにある日、「のへじ」にいろんな奴の誕生日を尋ねてみると、「のへじ」の野郎、全部そらで答えやがった。「のへじ」恐るべし。
しかし、これは『ノヘG型ウイルス』の症状ではなかったようだ。このウイルスにたびたび感染した俺は、全くアニバーサリー男になることは出来なかったから。
その「のへじ」は、結局ムーミンと結婚して子供が三人いる。まだ『ノヘG型ウイルス』を保有してアニバーサリー男してんのか、オマエは。